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Fiona Apple / Tidal (96.07.23)

TIDAL

 

 シンプルに、ピアノが主楽器の、美しいアレンジの、かつ、歌メロの整った音楽が聞きたい、と思ったら、ぜひ、オススメしたい、名盤です。私は、今、ふと、まるでポール・マッカートニーのようだ、と、旋律線の、神のようなバランスに、彼女の孤高さを、思いました。これが、1枚目だったものです。切れ上がった、美しい、悲惨な過去を、自虐でなく、自分のオーケーとして、肯定するでもなく、否定するでもなく、売り道具としてでもなく。純粋に、私感なく、楽曲題材とした作品。『タイダル』とは、潮の満ち引きのことです。

 ティーンまで、ついていなかったひとが、以降、満ちてきてくれるようにと、人生に、そこだけこっそり、願望を書いているんですね。いいことだなあ、と思います。ネガティブでなく、ただ、若い彼女には、その人生の、短い間の、洗練された現象こそが、テーマとすべき、品質を提供してくれるものだったりしたのだろう、と思います。

 やっぱり、ピアノが主線であれば、女性の、英語の、綺麗な作曲家のが、一番です。そうして、海より深い声ですから、もう宝石のようです。もしも、今、あなたが、聞く音楽に、困っているならば、このバタフライで舞い上がるように始まる、彼女の純粋さの結晶さのような、美しいアルバムを、聞いてみてほしいと、懇願します。

 歌は、世代で好みが若干異なります。これは、私達の世代の人間が、割と好むパターンのものです。けれど、私達の世代の人だけでなく、今の、21世紀に生まれた世代の、少年少女たちに、聞いていただきたいです。

 つらいことがあったそうです。でも、それを、美しい作品を作りたいが、ゆえに、つついて、手を染めた、自分自身への、侵食のような、けれど、無関係な、クーデターです。そのことを、私は強く、繰り返しですが、書いておきます。

 今41歳の、私と同じ年の。歌舞伎俳優、市川海老蔵と同じ年の、ニューヨークのシンガーソングライターです。ティーンの頃、孤独だった、大人になることが、少し怖かっただろう、彼女の、傷を、クオリティのために、泣きながら書いた。理解が、足りていなくて、苛まれることもあったことでしょう。

 けれど、彼女は、音楽のクオリティのために、そうしたのであって。結論として、痛いところを、わかってほしい、としたのではないのです。そのことを、今、強く、強く、あたしは、書きつけます。結果、涙は、確実に人の心へ焼きついたのです。