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鬼束ちひろ『シンドローム』(17.02.01)

シンドローム (通常盤)

 音楽を作る、ということが、楽曲の制作というだけではなく。全般に渡った、アルバムという単位での、掌握をしっかりしながらの産物であるというように、定義付けが、成り立ってきたのは、割と近年のことだったように、思っています。

 鬼束ちひろさんは、1980年10月30日生まれの、現在37歳の、女性音楽家です。楽曲の作り方が、クラシカルで、かつ、歌詞が美しく、知性派であることで、知られています。お若い頃、少し所属事務所等に、苦労された時期もありましたが、ここ10年は、レコード会社を変わったりはしましたが、概ね、穏健な、しっかりめのタームでの、制作活動に、励まれています。

 ピアノであるとか、ストリングスであるとか、が、お似合いの、アメリカで言えば、フィオナ・アップルのような、少し刺があり、かつオルタナティブで、いい作風で知られる、希代の女性音楽家です。このアルバム『シンドローム』は、まず9曲で構成された、曲数の少なさに目を牽かれます。かつ、1曲めと9曲めが、テイク違いなだけで、同じ曲なのに、びっくりします。けれど、残りの曲も、それも含めて、アルバム、音盤作りに、真剣に留意した結果だと、すぐわかるぐらい、素晴らしい構成になっており、また、本当に、均整のとれた楽曲だちが、スムーズに、歌となって、すいすい流れるさまに、感動するという、いいアルバムだったりね、します。

 音楽は、なんと言っても、精神やら、霊調やらを、整えるギフトです。そうして、この世界で、一番素晴らしい芸術です。ああ、音楽を作るということも、直観を鍛えて、ずっと歩いてきたあたしたちにとっては、とても先鋭的な、技術を、身につけてきたものだなあ、と、思う次第であります。彼女が、天性の頭脳で、このように、まっすぐ書けば、祈りが通じる、と信じ、書いてきたものであることに、本当に、恍惚とした喜びを持って、現在のあたしは、接しています。

 このアルバムは、巡恋歌という表現が、ぴったりです。通り過ぎていった季節と、通り去っていったひとに、さようなら、あたしの愛よ、というのは、センチメンタルで、本当にこの世界の、現在の時間帯に、ぴったりなものです。いつも、跳ね上がる、精神力に、感嘆しますが、音楽が、それらしい風情で、鳴っている響きに、戸惑うことなく、まやかしの多い世界で、それを越えた、響きに、震えるいい作品です。